国 際 支 援 と 共 生 社 会 へ の 提 言
〜 活動は六波羅蜜の行 諸宗教共存が共生に 〜      

サンガラトナ・法天・マナケ      
天台宗僧侶・インド禅定林住職      

 2001年、インドのグジャラート州を震源地とした大地震や昨年のインド洋ツナミ災害に対して日本の仏教界、宗教界が支援をしましたが、こうした支援活動はそれほど昔のことではないと思います。専門的なNGOとして難民救援や学校建設などをする宗教系団体がなかったというわけではありませんが。
 仏教界、宗教界が意識して災害支援活動に乗り出すようになった最大のきっかけは1995年の阪神・淡路大震災でしょう。自国で発生した大災害を経験したことで、NGOだけでなく、宗教界自体も岐路に立ち、視野が広がったのだと思います。これ以後、海外(トルコやインド、イランなど)で大規模震災が発生するたびに浄財や物資をおくるケースが見られます。
 グジャラート大地震では私たちパンニャ・メッタ協会のメ ンバーも現地に入り、学校を建設したり、井戸を掘ったり しました。現地では、同じように多くの宗教団体が諸方面 の活動をしていました。今は、宗教界が社会に対して距 離を置く時代は終わったと思 います。宗教それぞれの立場 がありますから内容は様々で すが、国際支援に対する考え 方は前向きになっています。
 アジア各国が一番期待して いるのは日本だと思います。 大規模災害や事故が起こると 日本の宗教界が動いてくれる だろうという期待は大きいの です。他方、今まで日本の宗 教界がしてきた活動というの は、どちらかといえばお金を 出すことが中心でした。しか し、人と人との気持ちやつな がりはお金で済まされること は少ないのです。
 大地震があったグジャラー ト、昨年起こったツナミ被害 の大きい南インドでも活動を させてもらいましたが、災害 直後に被災者が何を求めてい るかと言えば、物質的、経済 的な支援にとどまりません。 寂しい思い、苦しい思いをし ている時に、その苦楽を共に して下さる人、あるいはその 思いを被災者が求めているこ となのです。そのことを被災 地で実感しました。
 そういう分野に日本の宗教 界が出て行くケースはほとん どありません。浄財による支 援も大事ですが、人材をおく ることは被災者との結びつき を強めます。そのためにも人 材を育成し、いつでも派遣で きる態勢が必要ではないかと 思っています。国際状況や自 然災害を考えると、いつどこ で何が起こってもおかしくな いのですから。
 日本の場合、言葉を心配さ れるようですが私自身、同じ インドでもグジャラートや南 インドではまったく言葉が通 じません。でもそれが障害に なったことはありません。言 葉もできることにはこしたこ とはありませんが、できない からといって躊躇しないこと です。私の活動のスタンスは 助けるという上段から構えた り倣慢なものではなく、僧侶 としての六波羅蜜の慈悲の行 だととらえています。
 共生社会についてですが、 これまでは一つの宗教にする ことが世界平和の理想とされ てきました。ですが、60数億 の人々が一つの考え、一つの 思想、一つの宗教に依ってい くというのはまず不可能で す。どういう共生があるのか というと、相手の在り方をそ のまま認めていくことです。 自分以外の宗教を否定しての 共生ではなくて、自分以外の 宗教の在り方、そのありのま まを認めていけば共生は可能 ですし、それ以外にないと思 います。
 このことは自分自身、イン ド社会の中で生きてきて感じ たことです。ヒンズー教あ り、イスラム教あり、その他 の宗教ありの中で現実的な問 題が起こります。わかりやす い例をあげると、五戒の一つ に不飲酒戒があります。キリ スト教はお酒に対して肯定的 ですが、上座部仏教からする と相反します。反対にインド の仏教徒がキリスト者にお酒 を飲まないでと言ってもケン カになるだけです。社会条件 や気候条件でお酒に対する考 え方が違ってくるのです。イ ンドは熱いところですからア ルコールを必要としません。 反対にキリスト教が展開した 地域を考えるとお酒が必要だ ったのでしょう。それらを相 互理解することです。
 一方的な価値観を押しつけ で共生しようといっても歩み 寄ることはできません。白ら 理解の姿勢を示すことです。 諸宗教の共存は、あらゆる面 での共生につながると考えて います。

 サンガラトナ・法天・マ ナケ/1962年1月、インド ・ナグプール生まれ。9歳で 来日し、比叡山で出家得度。 95年ナグプールに「パンニャ・ メッタ子どもの家」を開設。 第28回正力質を受賞。インド 禅定林住職。パンニャ・メッタ 協会代表。日本人からは「サ ンガさん」と呼ばれる。
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